口腔ケアでインフルエンザを予防しよう!

インフルエンザは、例年11~12月頃に流行が始まり、1~3にピークを迎えます。インフルエンザの予防としては手洗い・うがい、マスクの着用などがありますが、近年インフルエンザの感染予防として、口腔ケアがとても重要視されています。

歯みがきや口腔ケアをおろそかにしていると、虫歯や歯周病の原因となる菌が増殖して細菌の塊であるプラーク(歯垢)がつくられます。インフルエンザは、プラーク中の口腔内細菌が出す「プロテアーゼ」や「ノイラミニダーゼ」という酵素が関係していると言われており、口腔ケアをしていない不衛生なお口は、インフルエンザに感染しやすくなることがわかっています。

インフルエンザとは?

「インフルエンザ」とは、インフルエンザウイルスが体内で増えて、熱やのどの痛みなどの症状を引き起こす感染症です。インフルエンザは、インフルエンザに感染している人の咳やくしゃみ、会話の時に空気中に拡散されたウイルスを、鼻腔や気管など気道に吸入することで感染します。感染の多くは、この「飛沫感染」によると考えられ、ドアノブなどの環境表面についたウイルスへの接触により、鼻や口などの粘膜や傷口などを通して感染する「接触感染」もあります。

粘膜に付着して細胞に侵入することで感染

インフルエンザウイルスは、鼻から喉(のど)にかけての粘膜にくっつき、細胞に侵入します。ただし、通常は粘膜はタンパク質で覆われているため、インフルエンザウイルスはなかなかくっつくことはできません。しかし、口腔内が不衛生な場合だと口腔内の細菌が出す酵素のはたらきによってインフルエンザに感染しやすくなってしまいます。

口腔内の細菌がインフルエンザが細胞に侵入することを手助けする

口の中には700種類以上もの細菌がいて、歯をよく磨く人で1000~2000億個、あまり歯を磨かない人では4000~6000億個、さらにほとんど磨かない人では1兆個もの細菌がすみ着いているといわれています。口の中の細菌は「プロテアーゼ」、「ノイラミニダーゼ」というタンパク質分解酵素をつくります。これらが粘膜を覆っているタンパク質を破壊して、インフルエンザウイルスが粘膜にくっついて、細胞に侵入するのを手助けしてしまいます。

口腔内が不衛生な状態だとインフルエンザに感染しやすい

ウイルスは、粘膜に付着しただけでは発症しません。細胞内に侵入・増殖を繰り返して「感染できるだけのウイルス量」を超えてしまうとウイルスに感染してしまいます。お口の中を不衛生な状態で放置すると、インフルエンザウイルスを粘膜に侵入しやすくする酵素である「プロテアーゼ」や「ノイラミニダーゼ」がどんどん増え、ますますインフルエンザに感染しやすい状態になってしまいます。

タミフル、リレンザなどの抗インフルエンザ薬はウイルスに直接作用するわけではなく、タンパク質分解酵素である「ノイラミニダーゼ」のはたらきを抑え、ウイルスを細胞内に閉じ込めることで感染が広がるのを防ぐ薬剤です。抗ウイルス薬はウィルスの増殖を抑える働きがありますが、口腔内細菌やその酵素には作用しないため、口腔内が不衛生な状態が続いていると、よりウィルスの感染が助長されてしまいます。

口腔内を清潔にして細菌を減らすことがカギ!

お口の中では、粘膜から侵入してこようとする病原体などの異物を捕まえて、体内に入らないように防ぐ役割を果たすIgAという抗体が働いていて、体に害を及ぼす細菌やウイルスを排除しています。しかし、お口の中が不潔で、多くの悪玉菌やそれらが産生する有害物質が多量に存在すると、IgA抗体による防御機構の働きまで弱くなり、インフルエンザウイルスなどの感染症にますますかかりやすくなってしまいます。インフルエンザに感染しないためには、口腔ケアを行って口腔内を清潔に保ち、悪影響を及ぼす細菌の数や有害物質を極力減らすことが重要です。

毎日の歯磨きもインフルエンザ予防になる

日常的な口腔ケアは、口腔内の細菌やウイルスの繁殖を抑え、免疫系の機能をサポートするのに役立ちます。私たちが毎日行っている歯磨きも立派な口腔ケアです。きちんとお口の中の汚れを除去できるように歯磨きを行いましょう。

寝る前の歯磨きは念入りにする

寝ている間は唾液が減って細菌が繁殖しやすくなります。歯ブラシだけでは歯と歯の間が磨きづらく、隙間にある汚れは残ってしまいがちです。デンタルフロスや歯間ブラシを併用して歯垢をしっかりと取り除きましょう。歯ブラシと一緒にデンタルフロスや歯間ブラシを併用することで歯垢の除去が大幅にアップします。

◆朝起きたら食べる前に歯を磨こう

寝ている間に繁殖した細菌が口腔内に多く生息する起床時。起床時の口腔内にはスプーン1杯分の大便があるのと等しい細菌が生息しているともいわれています。うがいや歯磨きをしないまま飲み物を飲んだり食事をすると、体内にウイルスや細菌を取り込んでしまうことになってしまいます。

◆舌磨きも忘れずに

細菌は歯だけではなく、舌の上にも多く生息しているため、歯磨きの際には舌磨きも忘れずに行いましょう。
奥から前方へ3回程度軽い力でかき出します。 初めて行う場合は、1ヵ所につき2~3回程度にしましょう。舌の粘膜はブラシでこすると傷ついてしまうため、優しい力で行うようにしましょう。

◆歯ブラシは1ヶ月に1回を目安に交換

歯ブラシは使用するうちに歯ブラシ自体にも細菌が繁殖します。歯ブラシの毛先が開くと、歯にきちんと当たりにくくなり、効果的に歯垢を落とせなくなります。口腔内を清潔に保つためにも、1カ月に1本を目安に交換しましょう。

適切な口腔ケアでインフルエンザの発症率が10分の1に!

東京歯科大学名誉教授の奥田克爾氏らは、東京都府中市の特別養護老人ホームのデイケアに通う65歳以上の高齢者98人には歯科衛生士による口腔ケアと集団口腔衛生指導を1週間に1回実施、別のデイケアに通う高齢者92人には、普段行なっているご自身で行う口腔ケアをしてもらいました。

歯科衛生士による口腔ケアを実施したグループでは、ご自身で口腔ケアをしたグループに比べ口腔内の細菌数が減り、上記で紹介したタンパク質分解酵素である「プロテアーゼ」と「ノイラミニダーゼ」のはたらきが低下。その結果、インフルエンザを発症した人は、ご自分で口腔ケアをしていたグループでは9人であったのに対し、歯科衛生士による口腔ケアを実施したグループでは1人でした。

歯科衛生士による適切な口腔ケアを行うことでインフルエンザの発症率を10分の1まで下げた研究結果として、国内外の歯科領域の専門誌で発表されています。

お口を清潔にしてインフルエンザを予防しよう

お口を清潔に保つことは、ウイルスをはじめとした感染症に強い体を作ることになります。お口を清潔に保つためには、歯みがきなどのセルフケアをきちんとすることが大切です。さらに、歯科医院でのプロフェッショナルケアを両立させることで、セルフケアで取り残した汚れや歯石(プラークが石灰化して硬くなったもの)を除去することができ、お口の中をより清潔に保つことができます。今の歯磨きをより良いものにするために、歯科医院では歯磨き指導も行なっています。いつでもお気軽にご相談ください。

プラークコントロールで歯を守ろうという記事でも虫歯や歯周病の原因となる歯垢(プラーク/細菌の塊)を減らして口内環境を正常に整えることについて紹介しています。よろしければご覧ください^^

まとめ

最近は、インフルエンザを予防するために口腔ケアが注目されており、お口の中が不清潔のまま放置しているとインフルエンザウイルスに感染しやすくなることがわかっています。

さらに、口腔内の健康は、全身の健康とも密接に関連しています。歯周病などの口腔疾患は、糖尿病や心臓病など他の健康問題のリスクを高めることが知られています。そのため、口腔衛生を維持することは、インフルエンザの予防だけでなく、全体的な健康状態を良好に保つ上でも重要です。

セルフケアとプロフェッショナルケアを両立させて、虫歯や歯周病だけでなくウイルス感染にも負けない口腔環境を目指しましょう!

記事監修 Dr.多賀 俊仁
多賀歯科医院
院長 多賀 俊仁

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