歯周病のリスクファクター-糖尿病編-

前回は、「歯周病のリスクファクター-喫煙篇-」についてのお話でしたが、今回は第二弾として「糖尿病」についてご紹介します。歯周病については「歯周病は再発しやすいお口の病気」でご紹介しているので、よろしければこちらをご覧ください。

実は、糖尿病と歯周病には深い関わりがあり、歯周病は「糖尿病の第6の合併症」とも言われています。糖尿病の方は歯周病になりやすく、なおかつ重症化もしやすくなり、歯周病の方は糖尿病の治療が困難になるなど、相互に悪影響を及ぼします。

そもそも糖尿病とは、どのような病気なのでしょうか?

糖尿病は深刻な国民病の一つ

糖尿病は、厚生労働省の「令和元年 国民健康・栄養調査」によれば、疾患が疑われる人を含めると、日本人の5~6人に1人が罹患(りかん)している、いわゆる国民病です。大きく分けて1型糖尿病と2型糖尿病があり、多くは2型糖尿病です。2型糖尿病は、暴飲暴食などの食生活の乱れ、運動不足などの生活習慣が原因と言われています。

糖尿病は血糖値が高くなる病気

糖尿病は、インスリンのはたらきが低下、あるいは分泌量が減少することで、血液に含まれるブドウ糖(血糖)が上昇する病気です。糖尿病になるとインスリンが十分に働かず、血糖をうまく細胞に取り込めなくなるため、血液中に糖があふれてしまいます。

糖尿病の診断方法

●HbA1cの値が6.5以上

血糖値が高くなると赤血球の中にあるヘモグロビンとブドウ糖が結合します。その値を表しているのがHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)です。血糖値が高いほどHbA1cの値も大きくなります。HbA1cが6.5以上だと糖尿病の診断目安になり、この値が大きくなればなるほど様々な病気を引き起こします。

●空腹時血糖126mg/dL以上

10時間以上食事を食べずに計測します。正常値は110以下で110超になると糖尿病になる危険性があるため注意が必要です。

●75g負荷試験の血糖値が200mg/dL以上

無水ブドウ糖75gを水に溶かした検査薬を飲んだ2時間後の血糖値を計測します。200mg/dL以上ある場合は糖尿病の可能性が高いです。

糖尿病は自覚症状のないまま進行します

血糖値が高いままでいると、時間をかけて神経や様々な場所に病気を起こします。糖尿病の恐さは、自覚症状のないまま進行することで、網膜症・腎症・神経障害の三大合併症のほか、動脈硬化が進行して心疾患や脳卒中のリスクも高まります。このような症状が出てきて、初めて気づくことの多い怖い病気です。このように糖尿病は全身の様々な病気を引き起こしますが、歯科治療においても影響があります。

糖尿病の場合に歯科治療で起きること

1.感染しやすい

血糖値が高くなることで白血球や免疫に関わる細胞の機能が低下し、病原菌と十分に戦えない状態になることがあります。健康な人であれば無症状で済む場合も糖尿病の場合は、重症化する場合があります。 歯科治療、特に抜歯においては口お口の中にいる菌が血管内に入り、無菌であるはずの血液中から細菌が検出される状態になる菌血症になってしまう事もあります。

2.傷が治りにくい

糖尿病では、高血糖による血流障害や神経障害などによって、傷が治りにくくなります。日常生活で生じる小さな怪我や虫刺されでも健康な人と比べて治療に時間がかかりますので、抜歯や歯周病・インプラントの手術などでは治療に時間がかかることを予想して治療計画を立てる必要があります。

3.血糖値が大きく変動する

歯や歯肉が痛くて食事がとれない場合は、血糖値が低くなります。また、歯科治療中に受けるストレスや麻酔注射によって血糖値が上昇すると言われています。歯科診療を受けるときは食事直前の時間帯を避け、食事を摂取した時間と糖尿病治療薬の使用に注意してください。

このように糖尿病は、歯科治療の際にも様々な影響を及ぼします。また最近では、先程ご紹介した合併症に加えて歯周病は「糖尿病の第6の合併症」とも考えられています。

歯周病は「糖尿病の第6の合併症」

糖尿病の合併症の一つに歯周病が挙げられるほど、相互に深い関係があります。血糖値が高い状態が続くと、細菌などと戦う機能を持つ白血球の働きが弱まり、細菌の感染症である歯周病になりやすくなるのです。

歯周病と糖尿病は相互に悪影響を及ぼす

糖尿病によって高血糖が続くと、骨が破壊される「骨吸収」が促進され、歯を支える骨が脆弱化することにより、歯周病が重症化しやくなると言われています。また、歯周病があると歯周病菌が産生する炎症性成分が、血糖値をコントロールするインスリンのはたらきを悪くすると言われています。そのため、糖尿病と歯周病は、相互に悪影響を及ぼしていると考えられています。

歯周病治療で血糖値が改善する

糖尿病の場合は、歯周病が進行しやすいですが、逆に歯周病をきちんと治療すると糖尿病も改善するケースがあることが明らかになってきました。ここでいう歯周病の治療は、患者さん自身のブラッシングによるプラークコントロールをしっかり行い、歯科医院で炎症の原因となっている歯石(歯周病の温床)を確実に取り除くスケーリングをする事です。

歯肉の炎症をコントロールできればインスリン抵抗性が改善し、HbA1cが低下し血糖コントロールも改善するということが、日本での研究を含めた多くの臨床研究で報告されています。

歯周病も糖尿病も早めの予防が大切です!!

歯周病と糖尿病は、どちらも生活習慣病ですが、初期では自覚症状がなく、気づかないうちに進行しやすい病気です。自覚症状を感じる前に歯周病や糖尿病をきちんと予防をする事が、お口の健康だけでなく全身の健康にもつながります。

糖尿病は、まず食生活や運動不足に気をつけましょう。そして、毎年健康診断を受診して、血糖値をチェックするなど自覚症状が出づらい早期の発見に努めましょう。歯周病は、お家でのセルフケアと歯科医院でのプロフェッショナルケアを両立させ、定期的検診で歯周病もチェックしてもらいましょう。どちらも日頃からの予防が非常に大切です。

まとめ

歯周病のリスクファクター(要因)として糖尿病は大きく関わっています。歯周病も糖尿病もどちらも初期では自覚症状があまりないため、気づかないうちに進行しやすい病気です。違和感を感じる前の早めの対処をしておくことで重症化を防ぐことができます。病院や歯科医院で定期的に健康状態チェックしましょう。

歯周病も糖尿病はどちらも生活習慣病といえます。この機会に日頃の生活習慣を見つめ、健康的に過ごしていきましょう!お口のことで気になる事があればいつでもお気軽にご相談ください(^ ^)

記事監修 Dr.多賀 俊仁
多賀歯科医院
院長 多賀 俊仁

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