口から全身の健康を守る!災害時の口腔ケア

災害はいつどこで起こるかわかりません。災害時には、食料や水の確保、避難生活の整備が優先されがちで、「口腔ケア」が疎かになりやすいです。しかし、実は食事や水分補給と同じくらい重要なのが「口腔ケア」です。お口が清潔でないと口腔内で細菌が増殖し、誤嚥性肺炎などの全身疾患にもつながってしまいます。

この記事では、災害時の口腔ケアの重要性とケア方法について解説します。

災害時の口腔ケアが必要な理由

災害時にはストレスや生活環境の変化により、口腔ケアが疎かになりやすいです。適切な口腔ケアが行われないと、次のような問題が発生するリスクが高まります。

1. 感染症や健康のリスクの増加

災害時の不規則な食生活やストレスで、免疫力が低下し感染症にかかりやすくなります。特に高齢者は、口腔内のケアが不足していると、お口の中の繁殖した細菌により誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)などの感染症のリスクが高まります。また、口腔内の細菌は、血管や唾液などを通して全身に運ばれ、全身疾患(糖尿病や心血管系疾患など)の原因となることがあります。

2. 口腔内のトラブルの悪化

災害時には、不衛生な環境や限られた水資源のために口腔内が清潔に保たれにくく、細菌が増殖しやすい状態になります。さらに、避難所生活での疲れや精神的ストレスで唾液の分泌量が少なくなり、歯周病や虫歯の進行が進みやすくなります。口腔内のトラブルが悪化することで、食事が難しくなり、栄養摂取にも支障をきたします。

3. 精神的な健康への影響

口腔ケアが行き届かないことで、口臭や不快感が増し、他人との交流を避けるようになるケースもあります。その結果、孤立感を招き、精神的な負担やストレスを増やすことにつながります。精神的なストレスは全身の健康にも悪影響を及ぼします。

災害時にできる口腔ケア方法

限られた環境下でも実践できる口腔ケアの方法を紹介します。水や衛生用品が不足している状況でも、可能な範囲で実践してみましょう。

1. 歯磨きは可能な範囲で行う

歯磨きは、できる限り続けることが大切です。水が不足している場合でも、歯ブラシを湿らせて磨くだけでもいいので汚れを落とすようにしましょう。水が使用できる場合は、フッ素入りの歯磨き粉を使用して虫歯を予防しましょう。

▶︎水が少ない時の歯磨き方法

  1. 水をコップに準備し、歯ブラシを濡らしてから歯磨きをします。
  2. 歯ブラシの汚れをティッシュペーパー(あればウェットティッシュ)で何度か拭き取り、歯磨きを繰り返します。
  3. 最後にコップの水で2、3回程度すすぎます。一度だけよりも、数回に分けて行う方が綺麗になります。

2. ティッシュやウェットティッシュを活用する

歯ブラシがない場合は、ティッシュやウェットティッシュで歯や歯茎を拭くことで、食べかすや汚れを除去できます。歯茎を優しくマッサージすることにもつながり、歯茎の血行も良くなります。

3. マウスウォッシュの使用

マウスウォッシュは、水が使えないときでも口腔内を清潔に保つのに便利です。口に適量を含み20〜30秒すすぎます。マウスウォッシュがない場合は、食べものを食べたあとに30ml(ペットボトルのキャップ2杯分程度)ほどの水やお茶(砂糖を含まないもの)でお口の中をすすぐようにしましょう。

4. 入れ歯の清掃

入れ歯(義歯)を使用している場合は、毎食後に取り外して汚れを落とすことが大切です。部分入れ歯の方は、金属部分を歯ブラシや綿棒などできれいにしましょう。水が不足している場合でも、ティッシュで拭き取るだけでも効果があります。寝ている際に繁殖するお口の菌が、入れ歯にも付着してしまうため、夜寝るときには入れ歯は外しましょう。

5. 唾液の分泌を促進

唾液には口腔内の細菌の繁殖を抑える効果があります。ガムを噛むことで唾液の分泌を促進し、口腔内を潤すことができます。虫歯予防のためにも砂糖を使用していないキシリトールガムを準備しておきましょう。ガムを噛む以外にも顎の付け根のあたりをマッサージすることで唾液腺が刺激され、唾液が出やすくなります。

「液体歯磨き」は水が使えない時にオススメ!

液体ハミガキは、液体なのでお口のすみずみにまで広がり、災害時のお口のケアにも大きな効果が期待できます。特に水が使えない場合は、液体歯磨きと歯ブラシがおすすめです。 液体歯磨きは、口に含んで口内に行き渡らせ、そのまま歯磨きをしたら、その後のうがいは不要です。

災害時に備えたい口腔ケアグッズ

非常時に役立つ口腔ケアグッズを備蓄品として準備しておくことで、万が一の際にも安心です。以下のアイテムを用意しておきましょう。

  • 歯ブラシ:コンパクトな携帯用歯ブラシを人数分準備しておきましょう。
  • 歯間ブラシやデンタルフロス:歯間にたまった歯垢を取り除くために役立ちます。
  • 歯磨き粉:少量で効果が期待できるフッ素配合のものがおすすめです。
  • 液体歯磨き:殺菌剤の効果で細菌の増殖を抑えます。
  • マウスウォッシュ:水が使えない場合にも便利です。
  • ガーゼやウェットティッシュ:水がないときに拭き取り用として活用できます。
  • キシリトールガム:唾液分泌を促進し、虫歯予防に効果的です。
  • 入れ歯洗浄剤:入れ歯を使用している方は必須アイテムです。

まとめ

災害時の厳しい環境下でも、口腔ケアは健康を守るうえで欠かせない重要な役割を果たします。特に高齢者や持病を持つ方は、口腔ケアを怠ることで全身の健康に悪影響を及ぼすリスクが高まります。日頃から防災対策の一環として口腔ケア用品を準備し、災害時にも口腔内を清潔に保つ習慣を身につけましょう。

非常時でも安心して過ごせるよう、この機会に防災リュックの中身に必要なものが揃っているか再確認しておくことをお勧めします。

記事監修 Dr.多賀 俊仁
多賀歯科医院
院長 多賀 俊仁

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