
歯周病は、日本人の成人の約8割がかかっているとも言われており、特に40代以降で急激に増加する生活習慣病のひとつです。しかも最近では、「歯周病が全身の病気に深く関係している」ということが、次々と明らかになってきました。
この記事では、歯周病と全身疾患の関係、そして歯周病予防の大切さについて解説します。
目次
歯周病は歯を失う主な原因の一つ

歯周病は、歯を支える骨や歯ぐきが炎症を起こし、最終的には歯が抜けてしまう病気です。はじめは「歯肉炎」と呼ばれる軽度の炎症から始まり、進行すると「歯周炎」となって、歯槽骨(しそうこつ)が溶けてしまいます。歯周病は自覚症状が少ないまま進行することが特徴で「沈黙の病気」とも呼ばれ、気づいた時には重症化していることが多いです。

なぜ40代から歯周病が急増するのか
歯周病は加齢とともにリスクが高まりますが、特に40代を境に急増するのには、以下のような理由があります。
■免疫力の低下と炎症反応の変化

加齢に伴い、体の免疫機能が徐々に低下します。これにより、細菌に対する抵抗力が弱まり、口腔内での炎症(歯ぐきの腫れや出血)が起きやすくなるためです。また、免疫の働きが変化すると、炎症が慢性化しやすくなり、それが歯周病の進行を加速させます。
■唾液の分泌量の減少

年齢とともに唾液の分泌が減り、口腔内の自浄作用が弱まります。唾液には抗菌作用があるため、これが減ることで歯周病菌が繁殖しやすい環境になります。さらに、40代以降では薬の服用(高血圧、糖尿病、アレルギーなど)による口腔乾燥も増えており、これも歯周病のリスク要因です。
■仕事や家庭のストレス増加

40代は、仕事や家庭、子育て、介護などで多忙かつ責任の重いライフステージです。慢性的なストレスは、免疫機能を抑制し、歯ぐきの炎症を悪化させます。そして、忙しさからお口のケアが疎かになったり、歯科通院の時間を後回しにしがちになることも原因と考えられます。
■ホルモンバランスの変化(特に女性)

女性の場合、40代に入ると更年期が近づき、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少します。このホルモンは歯ぐきの血管や免疫機能と深く関わっており、バランスが崩れると歯周組織が炎症を起こしやすくなります。
■長年の蓄積が表面化するため

若いころからの磨き残し・歯石・プラークの蓄積が、40代ごろから目に見える形で表面化します。これは症状がないまま進行していた歯周病が、この時期に顕在化するともいえます。
歯周病が全身に与える代表的な疾患5つ
歯周病菌が血流にのって全身を巡ると、さまざまな病気を引き起こしたり、悪化させたりすることがわかってきました。以下に代表的な疾患をご紹介します。
1. 糖尿病

歯周病によって歯ぐきが慢性的に炎症を起こすと、炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-α)が血流を通じて全身に広がります。これがインスリンの働きを阻害し、血糖値を上げやすくします。糖尿病の方は免疫機能が低下しており、歯周病が進行しやすく、治りにくいため注意が必要です。
2. 心筋梗塞・脳梗塞

歯周病菌が血管内に侵入すると、血管内皮に炎症を起こし、動脈硬化を促進します。これが、心臓や脳の血管の閉塞を引き起こすリスクとなります。歯周病がある人は、心筋梗塞のリスクが約1.7倍に上がるというデータもあります。
3. 肺炎

口腔内の細菌が唾液とともに気管へ入り、肺で感染を引き起こすことで肺炎が発症します。特に寝たきりや高齢者では、咳反射が低下しているため、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
4. 低体重児出産・早産

歯周病により産生されるプロスタグランジンE2(PGE2)や炎症性物質が血中を通じて胎盤に影響を与え、子宮収縮を誘発したり、胎児の発育に影響を与えると考えられています。特に、妊娠中の歯周病は、通常よりも約7倍も早産のリスクを高めると言われています。
5. アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、脳に「アミロイドβ」というたんぱく質が蓄積されることによって発症するとされています。歯周病菌は血流の流れに乗って体全体に広がり、脳内に「アミロイドβ」という認知症の原因物質の蓄積を促進することが示唆されています。
歯周病を防ぐために今日からできること
「歯みがき」だけでなく「歯間ケア」も習慣にする

年齢とともに歯ぐきが下がり、歯と歯の隙間が広がってきます。歯ブラシだけではプラーク(歯垢)を完全に落としきれません。歯間ブラシやフロスを活用して歯の汚れを落としましょう。特に就寝前は念入りにケアすることで、細菌の繁殖を防止することができます。
毎日歯ぐきの変化や口の中をチェックする

「歯が長くなった気がする」「歯ぐきが痩せた」などの変化は、歯周病の進行サインです。毎日鏡で歯ぐきを観察し、腫れ・出血・色の変化をチェックしましょう。少しでも異常があれば、早めにかかりつけの歯科医院を受診しましょう。
歯科医院での「定期的なメンテナンス」を習慣化する

定期検診は虫歯や歯周病を早期に発見・治療し、歯の健康を守るために必要不可欠です。定期的(3ヶ月〜半年に1回の頻度)に口内の健康をチェックすることが大切です。自分では見えない歯周ポケットの深さや炎症の有無をプロがチェックしてくれるため、自覚症状が出る前に異変に気づくことができます。
まとめ:歯周病予防は、全身の健康への第一歩

歯周病は「口の中の問題」と思われがちですが、実は全身の健康と深くつながっています。
40代は、口腔環境にとって“折り返し地点”です。
ここで正しいケアを始めることで、将来の歯の残存本数や全身の健康状態に大きな差が生まれます。
「最近歯ぐきが下がってきた気がする」「歯みがきのたびに出血がある」など、歯周病の小さなサインを見逃さず、毎日のお口のケアと歯科医院での検診やプロフェッショナルケアを受けることが、健康寿命を延ばす第一歩です。
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記事監修 Dr.多賀 俊仁
多賀歯科医院
院長 多賀 俊仁